読書一覧

辻由美「カルト教団太陽寺院事件」

集団死亡事件を起こした太陽寺院のことについて書かれた本。日本語で太陽寺院のことについて書かれた本はほとんどないようで、そういう意味でも貴重な存在だ。もともと作者はオウム真理教の一連の事件がきっかけでこの本を書いたというが、オウム事件との対比はしなかったという。これは正解だと思う。やはり、同じカルト教団と位置づけられているとはいえ、日本と欧米とでは信仰に対する考え方が違うようだし、無理に比べないほうがよいだろう。

結局のところ、カルト教団というものは、宗教のフォーマットを借りてトップが集団を支配するための仕組みに過ぎないのではないか、というのが私の率直な感想だ。何故、カルト教団にはまるのかという点については、その人の志が高いゆえにカルト教団にすがってしまうのではないかと思う。要するに、さらに高いステージに達するための拠り所になっているのだ。そう考えてみると、学歴が高い人、ステータスが高い人がカルト教団に入信するのは合点がいく。

カルト教団太陽寺院事件 (新潮OH!文庫)

カルト教団太陽寺院事件 (新潮OH!文庫)


畑川剛毅「線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記」

DMV制作までのドキュメンタリーを中心に、その紹介や、JR北海道の先進的の車両開発について書かれた本。私は工学的な知識が皆無なので、そういう記述を読むのは難しかったが、それでもわかりやすく書かれているというべきか。DMVについて一通り知りたいというのであれば、この本はうってつけだと思う。

個人的に残念だったのは、狙いはDMV専用路線の件。経費削減について書かれている。JR北海道が鉄道会社なので鉄道にこだわるのはわかるが、全体的な公共交通という枠で考えれば、DMVしか走らないとなると鉄道にこだわる理由が希薄になっていくような気がする。

線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記 (朝日新書 56)

線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記 (朝日新書 56)


斎藤潤「日本《島旅》紀行」

実際に著者が訪れた島についての紀行文。誰も知っている観光客も多く訪れるような島から、誰も知らないマイナーな島まで様々な種類の島を取り上げている。特に訪れるのも難しい島に実際に訪れることができた喜びというのは、私も路線バスの旅で運転本数が少ない路線バスの乗り継ぎをしていただけに、共感できるものである。全体的に島の実際がよく伝わってくるが、最終章で島のダークサイドに触れているのはいいとしても、いちばん最後に取り上げた島がかなり特殊な部類に入る長崎の軍艦島という点が、著者が狙ってのことだろうが私としてはどうかなと思ってしまった。

日本《島旅》紀行 (光文社新書)

日本《島旅》紀行 (光文社新書)


湯浅顕人「ウイニー―情報流出との闘い」

文字どおりWinnyに関して書かれた本。Winnyどころかコンピュータについてもあまり詳しくない人にもわかりやすいように書かれている。よくまとまってはいるが、22ページと35ページにほぼ同じ内容の小節がそのまま繰り返されて載っている。最初に読んだときにいつの間にか読んでいるページが逆戻りしたのかと思った。こうなると、誤字脱字が気になったりするなど本としての信頼性に疑問を抱いてしまう。これは著者というよりは編集者の責任だろうが。そういうマイナス点はあるが、パソコンを使ってインターネット等をしている人であれば読む価値はあると思う。

ウイニー―情報流出との闘い (宝島社新書)

ウイニー―情報流出との闘い (宝島社新書)


万大「通勤電車で座る技術!」

この本に書いてあることを一通り実践するとなると座る前に疲れそうだが、何事も工夫が必要という点では共感できる。個人的にはだいたいがわかりきったような内容だったが、人によっては目から鱗、となるのだろう。

なお、私は座る立つにはあまりこだわっていないが、他の人と密着するのがたまらなく嫌なので、朝の電車は始発の電車に乗って座るようにしている。

通勤電車で座る技術!

通勤電車で座る技術!


ローラ・スタック「定時に帰る仕事術」

キャッチーなタイトルなので読んでみた。アメリカの人が書いた本なのでそれがそのまま日本に適用できるとは思えない。こういう本はエッセンスの一部を取り入れるくらいの気持ちで読んだほうがいいと思う。あと、本に直接何かを書かせるページがあるのだが、これは古本屋に売らせないための知恵だろうか。


早坂隆「日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇」

戦時下のジョーク集という面白い切り口の本だと思い読んでみたが、ジョーク集シリーズの一つということらしい。ジョークとか漫才のかけあいが書いてあるのだが、文章にしているからか、全然笑えなかった。資料としての価値はある本だとは思う。

日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇 (中公新書ラクレ)

日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇 (中公新書ラクレ)


岡崎昂裕「自己破産の現場」

債権回収に携わっていた著者が現場での経験などを元に記した著書。ある種の距離を持ったような淡々とした描写が続いていく感じがするが、業界や社会への直接的な批判も散りばめられている。ちょっと自己弁護がましさも感じた。

自己破産の現場 (角川oneテーマ21)

自己破産の現場 (角川oneテーマ21)


谷口克広「信長軍の司令官―部将たちの出世競争」

織田信長家臣団について書かれた書。信長が天下統一に近づく原動力になった配下の武将の役割を時系列で、信用に足る史料から真実に近いと思われる内容をまとめている。

塙直政がここまで大きな役割を持っていたとは初めて知った。逆に丹羽長秀は一国を任せられる程度の武将であると書かれている。確かに、丹羽長秀が100万石を超える所領を得たのは秀吉の時代になってからだ。信長に評価された武将、評価されなかった武将の浮沈がよくわかった。

信長軍の司令官―部将たちの出世競争 (中公新書)

信長軍の司令官―部将たちの出世競争 (中公新書)


マキアヴェリ「君主論」

さすがに2週間読んで完全に理解できるような書物ではないが、読まないことには始まらないのでまず読んでみた。およそ500年前に書かれたものではあるが、現在でも通じることが数多く書かれている。普遍的なことが書かれているからこそ、現在でも読まれているのだと思う。

この書全体に自己と他者との関係についての事例がちりばめられているが、直言すぎて、「マキャヴェリズム」というレッテルを貼ったり、忌避する人がいるのもわかる気がする。

個人的に感銘を受けた一文は「こういうわけで、勝ちたくないと思う人は、せいぜい外国の支援軍を利用するといい。」

君主論 (中公クラシックス)

君主論 (中公クラシックス)