読書一覧

高田純次「適当論」

著者:高田純次、と書かれているが、高田純次が書いた本、というわけではない。和田秀樹という精神科医がからんでくるのだが、どうもしっくりこない。第2章の高田純次語録を和田秀樹が分析する、などは、無理矢理講釈をたれている感じがして、読んでいてつらくなる。やはりいちばん面白かったのは、第4章の高田純次独白か。全部第4章だったら面白い本だった、と言えるのだけれども。

この本自体が、いい加減というような意味の「適当」という言葉が当てはまるのだけれども、高田純次本人は根っから「適当」なわけではない、というのは再認識した。いずれにしても、一流のエンターテイナーであることは確かだ。

適当論 [ソフトバンク新書]

適当論 [ソフトバンク新書]


赤川学「子どもが減って何が悪いか!」

少子化に関して世の中に出回っている通説に対する疑問を、具体的にデータを用いて示している。確かに、一つのデータでも自説に都合のいいように解釈されて、それが通説になってしまうということは少なからずあることである。それに対して疑問を呈し、最終的には少子化=悪いこと、とは限らない、という本書の基本的な姿勢は、私としては賛同できるものがあった。ただ、統計学の難しい記述があって、そういう世界のなじみがない私としてはとっつきにくい部分があった。その一方、「子どもが減って何が悪いか!」というタイトルはガンダムの台詞からとったものであったり(そう本書に書いてある)、「小一時間とはいわないにしても、そう問い詰めたい思いである。」という、おそらく吉野家コピペから持ってきた表現を使っていたり、なんか変にくだけた部分があって、そういう部分が著書の中にあるとどうも負の印象を受けると、私は感じた。

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)


田村秀「自治体格差が国を滅ぼす」

私もかねてより人口が集中する自治体と、人口が減少する自治体の差の問題を感じていたので、この本を読んでみたのだが、正直なところ、それほど期待したほどの内容ではなかった。勝ち組自治体として、千葉県浦安市、愛知県豊田市、兵庫県芦屋市、負け組自治体として、北海道夕張市、千葉県木更津市、大阪府西成区、模索する自治体として、群馬県大泉町、三重県亀山市、徳島県上勝町の例が挙げられているが、上勝町の例は私自身よく知らなかったのでためにはなったが、基本的に例が極端すぎて、そこから日本全体の自治体の格差の問題に結びつけていくことが難しい。また、「ある意味では日本の縮図のような県」と銘打って新潟県の例が書かれているが、そこに書かれているのは日本の問題というよりは、新潟県の問題である。この著者は新潟県在住ということでそれを書いたのだろうが、学生のレポートみたいだと思った。最後には、「電気はどこからくるのか」「水はどこからくるのか」と、子ども向けみたいになってくる。問題の着目点はいいとしても、そこからの論の展開がどうも拙い感じがした。

「全国どこの都道府県へも最低三回は行ったし」と書いているが、こういうことをあえて書いている本はあまり見ない。私も全国どこの都道府県へも最低三回は行っている。沖縄県が三回で、あとは四回以上行っている。しかも全て自腹で。

自治体格差が国を滅ぼす  (集英社新書)

自治体格差が国を滅ぼす (集英社新書)


三浦展「下流社会 新たな階層集団の出現」

「はじめに」の最初に「下流度」チェックなるものがあって、その1番目の項目が「年収が年齢の10倍未満だ」とある。この言い回しからしてだめな感じがするが、読み進めていっても、その最初の印象が覆ることがなかった。著者自らあとがきで「統計学的有意性に乏しい」と評しているデータを使った説明が延々と続いていく。基本的に数字の解説は退屈であり、それに興味を持たせるような工夫もなく、その数字が「統計学的有意性に乏しい」では、まじめに読む気がしなくなる。さらに、自分の著書への参照が多いのも興ざめだった。中には読んでいて納得がいく記載もあるのだが、全体的には低い評価をつけざるを得ない。

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)


藤川大祐「ケータイ世界の子どもたち」

子どもの携帯電話の使用に関する問題についてまとめられた本。実情について書かれたあたりは参考になったが、社会的な問題に対する提起が記されている部分は、どうも論が膨張しすぎているように感じた。たとえばクルマ社会についてのくだりとか。それでいて、大人の「ケータイ」の使用についての記述がほとんどない。子どもの問題として閉じてしまっているように受けた。たとえば、小さい子どもをつれた母親が子どもそっちのけで携帯電話に夢中、などといった光景はけっこう見かける。携帯電話に染められている大人を見せつけられて子どもが育っている、という視点での記述があってもいいと思った。基本的に子どもの携帯電話の使用について何らかの規制はかけるべきだろうが、規制をかける主体は親になるわけで、そうなると親にメディアリテラシーがないとどうにもならない。もっとも、これは携帯電話使用に関わらず、教育一般に言えることなのだが。

著者は学校に負荷がかかる現状を憂いているが、これも同意できる。とにかく学校に何でも責任を押しつけるのはよくない。

一人一人の人間が点だとしたら、昔は面で点がつながっていたのだが、今では線で点がつながっているようになっていると思う。その線をつなぐ代表的なツールが携帯電話と言えようか。面のつながりよりも、線のつながりのほうが弱い。弱い線にすがるあまり、それが過剰になることもある。

ケータイ世界の子どもたち (講談社現代新書 1944)

ケータイ世界の子どもたち (講談社現代新書 1944)


東海林さだお「丸かじり劇場メモリアルBOX」

「丸かじり」シリーズから108編を精選、という本。ベストアルバムみたいなものか。全部で700ページ弱あって、内容もおもしろいし、一つ一つ読むのはそれほど苦ではないが、一気に読むのはたいへん。

個人的には食材を擬人化する話が好き。

丸かじり劇場メモリアルBOX (朝日文庫 し 14-4)

丸かじり劇場メモリアルBOX (朝日文庫 し 14-4)


竹熊健太郎「篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝」

康芳夫、石原豪人、川内康範、糸井貫二の四氏へのインタビューを中心にまとめられた本。糸井貫二のみ関係者のインタビュー等が中心で最後に本人へのインタビューが掲載されている。どちらかというと「糸井貫二に出会うまで」のドキュメンタリーと言った方がいいか。康芳夫という人物、正直私はよく知らなかったのが、このインタビューはかなり面白かった。体験談そのものが面白いというところもあるが、「オウム真理教に社会科学を勉強している幹部が少なかった」というような興味深い指摘もあったりする。自伝もでているようなので、機会があったら読んでみたい。石原豪人氏の話はホモセクシャルな話が印象に残った感じ。戦中、戦後の話は興味深かったか。川内康範氏の筋の通し方には感嘆した。右翼がどうの、左翼がどうの、カテゴライズされた思想のレッテルを前提で発言している人は氏の考えを知ったほうがいい。糸井貫二という人はほとんど知られていない人だと思うのだが、前述の三氏と並べると異色な感じはする。

人選もさることながら、竹熊氏の四氏に対する敬意が表れていて、丁寧に作られている。読み応えがある、よい本だった。

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)


草野厚「連立政権―日本の政治1993~」

連立政権といえば現在では自民・公明の連立政権であるが、1999年に書かれたということで、細川、羽田、村山、橋本内閣時代の連立政権について書かれている。小渕内閣はこのときは現在進行形だったので少し扱いが特別。わりと堅くまとめられていて、当時の状況が理解できた。特に日本社会党~社会民主党の状況にスポットがあたっている。今の社民党を見ると信じられないが、社民党が自民党が連立を組んで与党だった時期もあったのだよね。

連立政権―日本の政治1993~ (文春新書)

連立政権―日本の政治1993~ (文春新書)


寺谷ひろみ「暗殺国家ロシア―リトヴィネンコ毒殺とプーチンの野望」

イギリスで起こったリトヴィネンコ毒殺事件(検索すると「リトビネンコ」という表記のほうが一般的のようだがここは本書の表記に従う)とロシアの現状についてまとめられた本。リトヴィネンコ毒殺事件のくだりはまだついていけたのだが、ロシアの現状(オリガルヒとかチェチェンとかユーコスとかの記述が出てくる)になると、私がカタカナの名前を覚えるのが苦手で世界史が得意でなかったということもあってか、正直言ってついていけなかった。ロシアって怖いね、という感想を持ったくらい。

しかし、「本書は、事実にもとづく全くのノンフィクションであり、全部、実名である」と最初に書いてあるのはいいとしても、かなり踏み込んだ内容が書かれている本文に続いて、あとがきに書いてある「主にインターネットの情報から事実だけを拾って、構成した。」は、これはロシア流のジョークなのかと思ってしまった。これほどの内容をインターネットから事実だけを拾うって、よほどの眼力なり判断基準なりを持っているのか、それとも無自覚なのか。それでも、ロシアという国が抱える闇の大きさは否定できないことだと思う。

余談だが、寺谷ひろみという著者名からして女性かと思ったら、寺谷弘壬という男性の著者だった。


養老孟司「バカの壁」

言わずとしれたベストセラー本。確かにいいことを言っていると認めるべき点がいくつかあるものの、論がとっちらかっていてまとまっていない。養老氏が話した内容を編集部の人たちが文章化したものということで、そういう”らしさ”がよく出ている。小話の集合体という感じで、一冊の本としての完成度は高くない。小話の中でためになることが多いと感じられれば高い評価になるだろうし、少ないと感じれば低い評価になるだろう。そういう意味では私の評価は中程度か。

結局のところ、書名のキャッチーさでの勝利か。

バカの壁 (新潮新書)

バカの壁 (新潮新書)