読書一覧

太田光・中沢新一「憲法九条を世界遺産に」

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爆笑問題太田光と宗教学者中沢新一による対談を中心に構成されている。対談はどうしても内容が散漫になったり、脱線したりしてしまうものだが、憲法九条という明確なテーマを定めている本書もその例外ではない。太田光がボケるのはそれが役回りだからいいのだけど、中沢新一(実はこの人のことはよく知らないのだが、大学生の頃に中沢新一の兄を名乗る人に会ったことがある)もボケに回って、ダブルボケで話が締まらない。中沢が太田に歩み寄って話をしようとしているのだが、それがすべっている感じがした。大事なことを話しているようで、実はあまり価値がないような本、と言うべきかもしれない。

憲法九条を崇拝の対象にするのはどうにも理解できない。単なる法律ではないかと思う。日本という国は島国で攻めるに難く守るに易い、外国との交戦経験も少ない、さらに人の命の価値というのは過去に比べるとあがってきている(多産多死から少産少死)上に、戦争をして得るものというのは過去に比べると相対的に少なくなり、むしろ失うもののほうが多くなってきている、という現状から戦争はしない、どうせしないのであれば法律に「戦争は放棄します」と書いておいたほうがいいよね、くらいに私なんかは考えているのだが。

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)


毎日新聞旧石器遺跡取材班「古代史捏造」

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前に読んだ「発掘捏造」の続編的な本。結局読んだ後に感じたのは、考古学会の閉鎖的な環境だ。疑問を感じる声があったとしても、それに対する圧力の影響で、そういう声が出にくいという状況が垣間見られる。その分、マスコミなどの外部からの力に対しての拒否反応が大きいようにも感じた。私としては考古学とは縁のない人間なので、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが、そういう現状で考古学の「再生」が行われるかは疑問を感じた。

古代史捏造 (新潮文庫)

古代史捏造 (新潮文庫)


毎日新聞旧石器遺跡取材班「発掘捏造」

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考古学研究家による旧石器捏造事件について、毎日新聞のスクープ記事を発表するまでの経緯とその影響、課題点についてまとめた本。報じただけで終わり、ではなく、このように本にしてまとめるのは意義があることだと思う。かなり慎重な姿勢で取材に取り組んだことがうかがえるが、公表できないような手法の取材をすれば、後でこのように内幕までまとめて本にするということはできないだろう。捏造の現場の撮影から捏造をした研究家を問い詰めるあたりは、かなりスリリングな展開で読み応えがあった。

私は大学時代に少し歴史をかじっていて考古学をやっている友人もいたが、専門課程である程度の教育を受けていると、それにあわせて学問についての作法も学ぶことになる。捏造をした研究家は高校を出て就職して趣味で考古学を始めて、そこから研究家への道を歩み始めた。発掘という実作業で実績を挙げたが、作法を学ぶ機会を飛ばしたゆえにこのような捏造を行ってしまったのではないかと感じた。本来であれば、作法を知っているはずの大学教授といった専門的に長く考古学を研究してきた人がチェックすべきで、考古学界での責任という意味では、捏造によって作り出された成果を支持した研究者がもっとも責任があるのではないかと感じた。

考古学をとりまく環境の問題やマスコミの責任という点にも触れられているが、一般の人に全ての学問に対して興味関心を持って理解をしろ、というのも無理な話で、中には疎ましく思う人がいるのもやむを得ないとは思う。マスコミの責任についても、専門家の発表に疑問を持つまではできるかもしれないが、それを検証するとなるとなかなか難しいのではないか。かと言ってわからないから報じませんというわけにもいかない。そのあたりは難しい。ただ、結果的に捏造だった考古学の結果を町おこしに利用して「原人まんじゅう」とか「原人ラーメン」とか作ったのはかっこわるいとは思った。

発掘捏造 (新潮文庫)

発掘捏造 (新潮文庫)


香山リカ「なぜ日本人は劣化したか」

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香山リカといえば、私としてはファミコン通信の連載(「尻に目薬 目に座薬」)をおぼろげながら思い出すのだが、今ではすっかりテレビでもおなじみの顔になって隔世の感がある。

さて、本書であるが、「劣化」という言葉をオールマイティーに使っていて、論に無理が生じていると感じた。とにかく不都合なことがあると「劣化」という言葉で片付けている感じだ。それが、肉体的、精神的、社会的、文化的になものにまで対象が多岐にわたっていて、全体的に散漫になっている。結局、「日本人は劣化している」以上のものが伝わりにくい構成になっている。提出期限ぎりぎりにあわてて完成させた学生のレポートみたいな出来になってしまっている。おそらく、忙しい中あまり時間もかけられずに書いてしまったのだろうと推測する。

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)


田辺寿夫・根本敬「ビルマ軍事政権とアウンサンスーチー」

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学生の頃、ビルマに関する本を何冊か読んだことがあって、その関連で田辺寿夫氏が記した「ビルマ―「発展」のなかの人びと」は読んでいた。それから10年ほど経って、最近になってビルマ情勢がまた関心を集めている。そういうわけで5年前に書かれた本ではあるが、本書を読んでみた。

日本とビルマの関係から、日本に住むビルマの人たちのこと、アウンサンスーチーのこと、ビルマの現状のことなどがよくまとまっている。特に第二次世界大戦での日本とビルマの関係の変遷についての記述は、私はほとんど知らなかっただけに興味深かった。著者の立場からかビルマを民主化しようとする側からの視点で語られているが、読んでさらに思ったのは、軍事政権が民主化に応じるというシナリオはありえないということ。そうすれば自身の存在が危うくなる。おそらくビルマの民主化が行われるためには多大な犠牲が伴われることだろう。アウンサンスーチーという人は立派な人で、そういう覚悟は持っているということを本書からは感じたが、それに多くの国民がついてこれるのかというのは課題のように感じた。どちらにせよ、ビルマ民主化にあたっては現状の軍事政権の解析をして、そこにどう切り込んでいくかというのが必要のように思う。


村上正邦・平野貞夫・筆坂秀世「自民党はなぜ潰れないのか―激動する政治の読み方」

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村上正邦、平野貞夫、筆坂秀世の三氏の鼎談という形(最終章では亀井静香が加わる)で自民党を中心とした政治に関する話がまとめられている。政治に関する知識があるという前提で話が進んでいくので、そういう知識がないと読むのは難しいかと思う。私としては興味深く読むことができた。すべてが真実かどうかはわからないとしても、裏表のなさは感じる。全てに対して共感できるわけではないが、三氏とも教養も含めた知識も一通り備えていることは伺えるので、それなりに説得力はあると思う。知識については年の功もあるだろうが。現職国会議員にそういうものを持っている人がどれだけいるかと考えると疑わしくなる。

以下、平野貞夫のちょっといい話。

麻生太郎の話から(p.66)

平野 そもそも親父の麻生太賀吉という政治家に問題があるんですよ。福永健司、保利茂、麻生太賀吉、坪川信三は、麻雀ばっかりやってたんだから、吉田側近の中でいちばん評判が悪かった。それで林譲治、小沢一郎の親父の小沢佐重喜、益谷秀次なんかが苦労ばっかりしていた。

自民党と社会党が裏でつながっていた話(p.87)

平野 地下水脈でつながっていたのが、表に出てきた。社会党には巨額の金が流れていました。社会党の何十周年記念かで、金丸信は社会党の田辺を通じて億単位の金を渡していますよ。

その後、衆議院の定数是正の法案を出したときに、社会党がなかなか言うことを聞かなかった。言うことを聞かせるために、僕がその理屈を考えてメモを作ったんですよ。それは「選挙制度というのは、最大の政治倫理法である。これを審議拒否するというのは、政治倫理に反するということだ」という内容でした。ところが金丸は勘違いして、「あんなに金をやっているのに協力しないのは政治倫理に反する」と言ってしまったんです。大騒ぎになりましたよ。

角田義一に野党を統一するアイデアを聞かれて(p.170)

平野 (略)それで私は大きな声で「それは民主党も社民党もそれから仲間の無所属も全員共産党に入党すりゃいい」って言ったわけよ。そうしたら市田書記局長が怒ってね。「平野さん、ここは本会議場ですよ。冗談言わないでください」って(笑)。そうしたら角田が「そりゃあいい案だけど、おまえなんか入れてくれるかどうかわからんぞ」って(笑)。

衆議院議長を土井たか子にしようと思っていたら、連合山岸章会長が田辺誠に「おまえやれよ」と言ってしまい、田辺議長という雰囲気になってしまった中、田辺誠に温州みかんを土産に説得に行ったとき(p.234)

平野 田辺さんの家へ行きまして、口上を言いましたら、田辺さんも喜んでくれましてね。「社会党の国会議員にそんな気を使う人間はいない」「夏にみかんが食えるなんて」と。田辺さんの方から「心配してくれてありがとう」って。「一切任せるから心配するな」と言うわけです。やはり政治家ですよ。

筆坂 それは大したもんだね。

平野 その代わり後で「議長をつぶしたのは平野だ」って人前では悪いことを言うわけですよ。冗談だけどね(笑)。

筆坂 そりゃしゃあないね。

最後のは本当にいい話か。


タモリ「タモリのTOKYO坂道美学入門」

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あのタモリが東京の坂道についてまとめた本。坂道の写真と説明、散策ルートの紹介で構成されている。説明の中のちょっといい話が楽しい。どちらかと言うと、実物を見るための案内本というように思う。本を見て、実物を見て、また本を読み返すことで100%楽しんだことになるのではないか。あと、教養が愉悦に昇華しているという印象を受けた。歴史、地理、社会等の知識のベースを坂道紹介のための調味料としてうまく使っている感じ。

タモリのTOKYO坂道美学入門

タモリのTOKYO坂道美学入門


横田好太郎「キヤノンとカネボウ」

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カネボウを辞めてキヤノンに入社した人が書いた本。キヤノン在職中ということで、予想どおりキヤノンの悪いところはほとんど書かれていない。朝、下丸子駅からキヤノン本社までが混雑することと、長時間労働をしていること(もっともこの件については著者は問題ととらえていないようだが)くらいか。キヤノンについてはまるで会社の宣伝をしているようである。カネボウの昔の話は興味深く読めたので、一冊カネボウのことを書いたほうがよかったと思う。あと、言うなれば普通のサラリーマンが書いた本なので、筆力を期待してはいけない。

キヤノンとカネボウ (新潮新書)

キヤノンとカネボウ (新潮新書)


早坂隆「日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇」

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「日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争篇」の続編。結局、人間の普遍的な部分というのはあまり変わらないということは思った。ジョークというのはある種の情報伝達の方法であるとも考えられる。現代社会は個人が得られる情報量が膨大の量になっていて、これは人類史上最大量と言える。そのような中で、戦時下体制、情報統制がとることができないのではないかと感じた。

一部、某宗教の機関誌の4コマ漫画を読んでいるような気分になるジョークがあった。

日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇 (中公新書ラクレ)

日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇 (中公新書ラクレ)


星亮一「会津落城」

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最近話題になった会津藩の終焉について書かれた本。会津というとことさら悲劇性が強調されているふしがあるが、本書はそういった要素は強調せずに、会津藩の終焉について分析的に記してある。結局のところ、鳥羽・伏見の戦いなどで藩が疲弊したこと、藩幹部の考え方が古いこともあって武装が劣っていたこと、そして肝心の戦いの場において戦略的に失敗したことなどが原因で落城したというのが結論か。負けるべくして負けた感じだ。メンツを重んじるあまり合理的な選択肢がとれなかったということだが、これは時代や社会を考えると仕方がないことかもしれない。

本書には福島を中心とした地名がいっぱいでてきて、一応地図は載っているものの、地理に弱い人は進軍の様子などがなかなかイメージできないかもしれない。

会津落城―戊辰戦争最大の悲劇 (中公新書)

会津落城―戊辰戦争最大の悲劇 (中公新書)